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トゥキディデス「戦史」巻2のペリクレスに見る政治家の素質

概要

トゥキディデス

トゥキディデス古代ギリシャアテネの人。 アテネともう一つ有名なポリス(都市国家)としてスパルタがあるが、トゥキディデスはスパルタに要地を奪われた責任でアテネを追放された。

戦史

アテネを中心とするデロス同盟とスパルタを中心とするペロポネソス同盟との間に起きたペロポネソス戦争を、アテネを追放されたトゥキディデスが第三者視点で記録した本。 政治学・国際政治学界隈では非常に有名な本である。

ペロポネソス戦争

元々古代ギリシャで自主独立していたスパルタに対し、アテネ覇権主義的な色を帯び、旧来国家であるスパルタと新たに拡張政策を取り始めたアテネ。 両国関係は不安定化し、紀元前431年スパルタがアッティカ地方に侵攻しペロポネソス戦争が勃発した。

トゥキディデスの罠

このように旧来国家と拡張政策を取り始めた新興国家との関係が不安定化し、戦争に至ってしまうことを「戦史」より「トゥキディデスの罠」と呼ぶ。 現代でいうと、20世紀後半から現在にかけて覇権を握ってきたアメリカ合衆国に対し、拡張主義色の強い台頭した中国の関係が不安定化し、軍事衝突が懸念されている。 深刻に懸念されているのはこの「トゥキディデスの罠」が歴史上何度も現実のものとなってしまっているからだ。

巻2

概要

巻2の内容は、アテネの政治家ペリクレスの演説に焦点が置かれている。 演説はスパルタからの侵攻を受け大戦が勃発した後の最初の冬に死者を弔う儀式においてのものと、疫病が流行し内憂外患に苦しむ市民が戦争を推進するペリクレスに対して不満を募らせている時に行ったものだ。

トゥキディデスはこの巻2で、ペリクレスを直接的にではないが賞賛している。 まず、指導者としての演説だ。 ペリクレスは非常に演説がうまく、この演説により戦争に対しての不満を持っていたアテネ市民を奮い立たせ、戦争への機運を高めることができた。 もう一点、こちらが重要だと思うが、ペリクレスは非常にリアリストで、アテネが戦局を拡張しようとせず、冷静に海軍力を拡充し機を待てばこのペロポネソス戦争に勝利できる、と見抜いていたことだった。 残念ながらペリクレスは開戦後数年で亡くなり、アテネは彼の意に反してシチリア島にまで戦局を広げてしまい、ペロポネソス戦争に負けてしまうこととなる。

感想

トゥキディデスの戦史巻2には、現在にも通じる政治家・指導者として大事なことが凝縮されていたように思う。

下記3点が国の指導者として必要なことではないかと感じた。

指導力

「民主主義」は間違うことがある。ペリクレス亡き後政策決定が市民の恣意になり、アテネは破れた。 市民は愚かだから賢い指導者に全て従え、と言うつもりはないが、「民主主義」が間違いを犯すというのは事実だ。

だから、賢く指導力ある者が市民を導く必要がある。 大衆に迎合し大衆受けの良い政策を進めるのではなく、大衆は受け入れるのが難しいかもしれないが、その状況下で正しいと思われる政策の説得に努め、実行する力だ。 頭がよく政策を寝る力があっても、それを市民が受け入れるよう説得し導くには別の力が必要だ。 ペリクレスの場合、それはスパルタの支配に甘んじることではなく、機を待ち欲を働かず確実に堅実にペロポネソス同盟と戦いペロポネソス戦争に勝つことだ。

② リアリスト

いくら指導力があっても、空想主義者ではだめだ。政策はそんな簡単にうまくいかない。 指導力がある空想主義者は最悪だ。市民を危険に陥れてしまうだろう。 現実を見て、今の状況でもっとも確実なbenefitが見込める政策を見極める力が指導者にはなければならない。 ペリクレスアテネが野心的に戦局を広げてペロポネソス戦争を勝つ力はないが、冷静に備えをし堅実に戦えば勝てるということを見極めていた。

③ 国を、市民を愛する精神

これがなければ、私利私欲のために市民を利用する独裁者だ。 国と市民を愛し、市民には受け入れるのが難しいかもしれないが市民のための政策を推し進めるにはまず市民を愛さなければならない。

こうして見ると、私は現日本首相の安倍総理は(外交政策においては)これら全て要素を満たしていると感じる。 彼が国や国民を愛しているのは疑いようがない。 そして極めて現実的だ。野心的な中国が台頭して日本の軍事力を大きく上回り、非常に大きな脅威となっていて何らかの対策が必要なのは事実だ。 特定秘密保護法、安全保障関連法を成立させ、トランプ大統領アメリカと友好関係を築き、プーチン大統領のロシアとも友好関係を築いているのは極めて現実的な判断だ。 安全保障関連法やアメリカとの友好関係なしでも大丈夫、などというのは空想主義極まりない。 また、やり方には一定程度不足はあるかもしれないが、強い指導力があるからこそこれらの実績を作ることができた。

安倍総理の後も、人気取りのために大衆受けの良い事ばかりいう政治家ではなく、国民の反発を招くかもしれないが現実的に正しい判断のできる政治家が続いて欲しいと思う。