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ゲームオブスローンズが世界史になったら誰の名前が教科書に載るのか考えた

ゲームオブスローンズが終わった

先日HBOの偉大で重厚なドラマ、ゲームオブスローンズの最終回が放送され、10年弱に渡る物語が完結した。 この最終シーズンのためにAmazonスターチャンネルに契約して、初めてリアルタイムでこのドラマを観た。 Twitterで誰かが「これから何十年たっても不朽の名作と語り継がれるであろうこの偉大なドラマの最終章をリアルタイムで見れるなんて幸せだ」と言っていたが、まさにその通りだ。

最終章には色々な批判が当たった。人物の描写が粗くなったとか、同意する部分もあるが、それでも綺麗にうまく納得感の高い形でまとまったと思う。 好き嫌いを言うのは自由だが、クリエイターに対して作り直せなどと言うのはリスペクトを欠いた恥ずかしい行為だろう。トータルで考えてゲームオブスローンズが比類なき素晴らしいドラマであることは疑いようがない。

ゲームオブスローンズを観る前は、シーズン長いしファンタジー自分あんま好きじゃないしほんまにおもろいんかな、と一歩引いて見始めたが、これほど面白く重厚なドラマは他にないだろうと思う結果となった。 ゲームオブスローンズを観たことをきっかけに、West World、Big Little Liesなど他のHBO作品を観るようになったことも良かった。いずれも非常に面白い。 ゲームオブスローンズを見始める決断をした1年半くらい前の自分に感謝したい。

歴史の奥深さ

ゲームオブスローンズを全て見終えて思ったのは、歴史の奥深さだ。 ゲームオブスローンズはとても重厚で濃密な物語であるが、たかだか10年にも満たない時間軸の物語である。世界史的な視座で見ればほんのわずかな時間である。

ホワイトウォーカーやドラゴンはいないが、ゲームオブスローンズで繰り広げられた物語は実際の世界史においても起きたようなことのはずだ。 実際の世界はウェスタロスとエッソスを足したよりも何十倍、何百倍も広く、人類の歴史も何百倍、何千倍の長さもある。

私は高校生の頃から世界史が大好きで、もはや世界史の勉強は趣味みたいなものだったが、それでも知っているのは世界史の表面的な事実...目立った人物や出来事だけなのだ。 そう思うと、世界史の教科書で一行で語られる出来事の裏に、どれだけの個性的な人々の思い、ドラマがあったのか...ゲームオブスローンズで登場した名前のある人物は数百人に上ると思うが、皆にそれぞれ心揺さぶられるようなドラマがあった。 それこそ本当にたくさんの物語があるのだ。ゲームオブスローンズを観て、この世界の歴史物語をもっともっと知りたいと思った。

さて、前置きが長くなったが、ではもしゲームオブスローンズが世界史になったら、一体誰の名前が教科書に載ったり試験に出たりするのか考えてみた。 ここからネタバレありです。

【ネタバレあり】ゲームオブスローンズが世界史になったら、誰の名前が教科書に載るのか考えた

前提条件 ウェスタロスとエッソスは世界の全てなのか、一部なのか

ウェスタロスとエッソスの位置付けによって、歴史の粒度も変わりどこまで教科書に載るかがかなり変わってくる。

ゲームオブスローンズで登場する世界は、基本的に西のウェスタロスと東のエッソスのみだ。 この世界にはウェスタロスとエッソスが世界のほぼ全てなのだろうか。それとも世界におけるイギリスぐらいの規模のものなのだろうか。

登場人物たちは、しょっちゅう北から南へわりと気軽に行き来していた。もちろん遠く危険な道のりだろうが、何週間も何ヶ月もかかるような距離ではなさそうだ。 シーズン7では壁の向こうで窮地に陥っていたジョン・スノウたちをドラゴンに乗ったデナーリスがコンコルドのような速さで南の方から助けに来ていたが、ドラゴンがコンコルドのように速いのはもちろんあるだろうが、実際ウェスタロスはそんなに広くないのだろう。

さほど広くないと思われるこの世界だが、ドラマの中ではあたかもウェスタロスとエッソスが世界の全てであるかのような描かれ方がしていた。 使用されている武器(クロスボウとか)や船の形を見るに、ゲームオブスローンズの時代は15世紀ぐらいではないかと思われる。船はガレオン船のような船で、15世紀ぐらいに登場した船だ。 現実の世界では15世紀には商人は中国とも交易をしていたし、外国との関わりは当然あるはずだ。 にも関わらず他の外国がある気配がなかったので、世界はウェスタロスとエッソスであると考えるのが自然なのかもしれない。

だが、ここではウェスタロスとエッソスは世界の一部として考えたい。

中国のような国と交易しているような描写はドラマになかったと思うが、ゲームオブスローンズは貴族の争いがメインの話なので描写されなかっただけなのかもしれない。 それに、最後にアリアは西部へ海路を旅立った。せっかく旅立ったのに、海しかなくて世界を一周して結局エッソスの東海岸に着いた、みたいな結果にはなってほしくない。

なんだかんだ色々言ったが、私は高校で日本史の授業は受けていたが受験では使わなかったので、ほとんどちゃんと勉強しておらず一国の歴史の教科書の粒感がよくわからない。 一方世界史は息を吸うように勉強していたので、世界史の粒感、感覚はわかる。 なのでここでは世界の中のウェスタロス・エッソスとして誰が歴史に名を残すか考えてみることにする。

世界史の教科書に載る人物 (センター試験レベル)

世界史の授業を高校で受けたことのある人なら誰でも知ってる山川の青い世界史の教科書に載る人物を考えた。 つまり、最も名前の載りそうな人物たちだ。 ただ、世界史の教科書に載る人物イコール一般的にも有名な人物というわけではない。世界史的意義と一般にも知られるほどの功績は必ずしも一致しない。 ここでは世界史的な意義の視点から、教科書に名前が載る人物を考えた。

ロバート・バラシオン

特にこの人物に思い入れがある人はあまりいないと思うが、最も世界史の教科書に載りそうな人を一人挙げろと言われたらロバート・バラシオンだと思う。

彼は呑んだくれで統治能力もなく、シーズン1で狩りの最中酔っ払ってイノシシに突かれてあっけなく退場したが、彼は長く続いたターガリエン王朝を倒した。

長く続いた王朝が倒され、新しい王朝が始まるのは大きな出来事で、世界史的な意義の大きい出来事だ。 実際プランタジネット朝(ヘンリ2世)、テューダー朝(ヘンリ7世)、スチュアート朝(ジェームズ1世)など新たな王朝の始まりの王は世界史の教科書に載っている。 いずれも地味でそこまで目立った功績もないが、しっかり教科書に載っている。 ロバートは統治で特に目立った功績もないが、逆に特に目立った失点もない。 無難に確実に教科書に名前を載せるだろう。

しかも倒した前王は狂王エイリス・ターガリエンだ。狂王を倒した人物として好意的に語られるかもしれない。 フランスの体制を変えたナポレオンは背が低く見た目の良い人物ではなかったというが、彼はハンサムなイメージで通っている。 太った飲んだくれのロバートもハンサムなイメージを後世の人々からもたれるかもしれない。

アリア・スターク

アリア・スタークがいなければ世界、少なくともウェスタロスは死の島になっていた。ウェスタロスの救世主だ。 アリア・スタークはナイトキングを倒し、ホワイトウォーカーの恐怖から人類を解放した。

ナイトキングとの戦いは、明確な指揮官と言える人がいなかった。 ジョン・スノウが多くの人々を説得して結託させ、ナイトキングとの戦いの立役者となったことは疑いようのない事実だが、彼が人類軍を代表する指揮官だった断言するのは難しい。 デナーリス・ターガリエンとの二挙党体制だったが、この歴史に残るホワイトウォーカーとの戦争における勝利の栄誉はアリア・スタークが全部持っていくだろう。

しかもアリアは女性であり、20歳にもなってるかなってないかぐらいの年齢で、少女と言ってもいいぐらいだ。 ジャンヌダルクと並ぶ伝説の女神として歴史に名を残すだろう。 後世ではアリアを主役にしたドラマや映画などのコンテンツがたくさん作られるはずだ。

さらに、ドラマの最後でアリアは誰も先を知らない西部へ旅立った。 もしかしたらコロンブスばりの新大陸発見の偉業を成し遂げるかもしれない。 アメリカ建国の父の政治家であり避雷針を開発した発明家でもあったベンジャミン・フランクリンを超える、ウェスタロスの救世主であり新世界の開拓者と、マルチに偉業を残した伝説としてアリア・スタークは語り継がれるかもしれない。

ブランドン・スターク

バラシオン朝後期からの混乱期...よくわからん宗教が蔓延し、聖堂が大爆発し、サーセイ・ラニスターが女王になったがデナーリス・ターガリエンの乱による王都の荒廃。その王都を再建し、世襲制度が終わり、新たな貴族による選挙制度で始まった王朝の初代の王だ。

ブランドン・スタークは王の手と小評議会にほとんど政治を任せ、自らは象徴権力となり、実質的な実績は残さないかもしれないが、民衆にも重きを置く新たな政治的価値観の王政の初代王は、世界史の教科書に名前が載ること間違いない。

ブランが持つ能力は、10人の話を同時に聞ける聖徳太子的なノリで語られるだろう。

難関私立大学の入試で出題されるレベル

山川の世界史の教科書に端っこの注釈の部分に載ってたり、世界史の図説には載ってたりはするかもしれない人物たちだ。世界史で上位の私立大を狙う受験生なら当然抑えておくべき人物たち。

デナーリス・ターガリエン

センター試験レベルに上げてもいいかと迷ったが、難関私立大レベルにした。 デナーリスは多くの肩書きを名乗っており、功績の多さの証左になっている。「嵐の申し子」「ドラゴンの母」「奴隷解放者」... デナーリスとジョン・スノウの初対面のシーンでは、ミッサンディがデナーリスを紹介しデナーリスの長い肩書きをつらつらと述べ、ジョン・スノウとダヴォスが圧倒されてタジタジになっていた。

デナーリスは最初から最後まで物語の中心であり続けたが、世界史の観点から見ると、デナーリスの功績で最も注目すべきは、海を渡ったことがないドラスク人をウェスタロスに連れてきたことではないかと思う。 デナーリスが退場した後のウェスタロスでドラスク人がどうなったのかわからないが、ティリオンとブランなら彼らを追い出す判断はせず、自治領を設けるなり共存する道を選ぶはずだ。民族の融合だ。

世界史において、人の移動は重要な出来事だ。ゲルマン人の大移動、ノルマン人の大移動。

移動したゲルマン人ヴァンダル王国とか東ゴート王国とか西ゴート王国とかあちこちに王国を建てた。 だが、その移動を誰が率いたとかの話はあまり聞いたことがない。

ノルマン人の移動もかなり世界史上に大きな影響を与えており、ロロがフランスにノルマンディー公国を建てたりクヌートがイングランドにデーン朝を建てたりノルマンコンクエストが起きたりと、 王国を建てることに成功した者はしっかり名を残している。

ところが、ヒストリーチャンネルのVikingsの主人公、ラグナル・ロズブロークの名前は、どれだけ世界史の知識のある受験生でも知らないだろう。Vikingsを見始めた時は私も、ラグナル?誰だそいつと思った。 ラグナルはタフでノルマン人の飛躍の礎を築いた人物だが、イングランドに乗り込んだりパリを侵略しようとして失敗したりして結局国を建てることはできなかったので、名前を残せなかった。

デナーリスも王都をわずか数時間で陥落させたが、最終的には王の座を奪取することには失敗した。 その点において、この出来事の主語としてはデナーリス・ターガリエンの名よりもドラスク人となりそうだったので、センター試験レベルにはしなかった。

だが、その後のブランドン・スタークから始まる新時代を作るきっかけとなったことで、世界史的な意義はある。 また、ドロゴンが地球上に存在する最後のドラゴンなら、ドロゴンがメスで卵を生んでなければドラゴンは絶滅、最後のドラゴンの母として知られるだろう。

ドラスク人とドラゴンを伴って王都を侵略した異色な女性として映画化やドラマ化され、一般的な認知度は高くなるかもしれない。

ティリオン・ラニスター

世襲の王権を廃止し、貴族による選挙制度の提案者であり、近代的な選挙制度の先駆けとして名を残す。

新時代の王の手、つまり宰相としての実績によっては、ウォルポールのようにセンター試験レベルに格上げできるだろう。 今は小評議会、つまり内閣が存在しているが、貴族議会などを作ればセンター試験レベル格上げは間違いない。 そこまでいかなくても、優秀な働きをすれば、リシュリュー枢機卿のように有能な実質執政者として名を残せるだろう。

氷と炎の歌」にティリオンの名前はなかったそうだが、新時代で活躍すれば、過去の功績も研究され、記録される。 ブラックウォーターの戦いでスタニス・バラシオンを撃退し王都を危機から救ったり、ジョフリー・バラシオン殺害容疑で死刑になったが兄ジェイミーに助けてもらったり、デナーリス・ターガリエンとジョン・スノウの間を取り持ち人類の危機を救う手助けをしたり。 後世の人間がティリオンについて字面だけ読めば、こいつは数年の間に主君を何度も鞍替えして一体何なんだ、と思うかもしれないが、その実正しくあろうとした人間愛に溢れた人物なのである。 世界史で一行で語られる出来事の背景にある人間のドラマを最も感じさせるのがティリオンだ。

最難関私立大学の入試で出題されるレベル

最難関私立大学とはいえ、私立大学レベルまでの問題が多くを占めるが、たまにそんなん誰も知らんがなみたいな問題が出る。他の受験科目に自信があれば知らなくてもいいような人物たちだ。

サンサ・スターク

ブランドン・スタークの即位と同時に、北部が独立し(という解釈で合ってるのか?)、初代王女となった。 イメージ的にはブリテン王国からスコットランドが平和的に独立した、みたいな感じだろうか。 独立した北部の未来によってサンサ・スタークの名前の重みも変わってくる。しばらくしてまた七王国として併合されたらほぼ重みはないが、アリアが開拓した西部をアリアと共に併合して大国になるチャンスもある。だがあまりそういうイメージはない。

シーズン1から見返すと、サンサの成長に驚く。本当に最初は少女だったが、最終シーズンの戴冠式の風格たるや。エリザベス1世を彷彿とさせる風格だ。

ピーター・ベイリッシュ...私は彼を推していたが、彼や過酷な境遇から政略を学び、とてもとても成長した。 そんなサンサが率いる北部のイメージとして私が感じるのは、小国でありながら高い諜報力を持ち大国と渡り合ったヴェネツィアだ。 高い諜報力で長年に渡り巧みにキリスト教世界とオスマン帝国の間で綱渡りをして繁栄した稀有な国。サンサの率いる北部はそんなイメージだ。 だが、そんなヴェネウィアを率いた人物の名は世界史の教科書や図説で見ることはなく、塩野七生の本を愛読している人ぐらいしか知らないだろう。 最難関私立大なら辛うじて出してくるかもしれないので、このレベルとした。

クァイバーン

マッドサイエンティストクァイバーン。最難関私立大がしれっと問題に出すが、正解できる受験生は数%ぐらいだろう。 マウンテンを魔改造して何度刺されまくっても一向に堪える様子のない鉄人にするなどマッドサイエンティストぶりを発揮するが、彼はドラゴンに対して現実的な対抗手段を発明したとして名を知られるうようになる。 それまでドラゴンに対抗しうる手段はないと考えられていたが、スコーピオンを開発し、実際にドラゴンを一体退治した。

「次の4つの文章のうち、正しいものを選びなさい」という問題で4つの文章のうちの一つ「ラニスター朝の王の手であったパイセルは、ドラゴンに対抗する手段としてスコーピオンを開発した」とういう選択肢があって、これは誤りでパイセルではなくクァイバーン、というような感じの問題として出題されそうだ。

ハイスパロー

こいつはいきなり出てきたくせに長々とストレスフルな振る舞いを続け、見ていてイライラしたのであまり多くは語りたくないが、宗教急進派が王都を引っ掻き回したとして歴史に残る。

ゲームオブスローンズの世界では、宗教権力よりも国王の権力が圧倒的に強い。モデルとなったイギリスではそうでもないが、中世ヨーロッパでは一般に宗教権力と国王の権力は拮抗しており、宗教権力が国王権力を上回ったような出来事は歴史に残っている。カノッサの屈辱などがそうだ。

突然やってきたハイスパローは、いつのまにか権力を加速し...時の王トメン・バラシオンを懐柔し、摂政太后に恥辱の道...カノッサの屈辱どころではない屈辱を与えた。

ただ、そもそもこのジョフリー/トメン・バラシオン〜サーセイ・ラニスター治政が歴史の大局から見ればロバート・バラシオン時代から世襲王廃止時代の間の混乱期とまとめられそうなのと、宗教権力は長くは続かずサーセイにより一瞬で吹き飛んだので、歴史的重要性が相対的に下がりそうと判断し、このレベルにした。

サーセイ・ラニスター

上のハイスパロウとセットで名前が出てくるだろう。ハイスパロウにカノッサの屈辱を超える屈辱を味わわされ、その後そのハイスパロウごと面倒なタイレル家などをまとめて聖堂ごと吹き飛ばした。 ただ、聖堂大爆破事件がサーセイ・ラニスターの画策だと後世の人々が知ることができるのかわからない。関与を隠蔽し記録を抹消すれば、事故扱いされるかもしれない。 そうなるとハイスパロウに復讐した功績が歴史に残されず、サーセイは子供を全員失い、屈辱を味わわされ、デナーリス・ターガリエンの乱で王都を陥落された、ただただかわいそうな女王として後世から同情されるだろう。

サーセイはデナーリスやティリオンやサンサなど多くの王都外の人々から敵意を買っていたが、人民を気にせず聖堂を吹き飛ばした以外は実際そこまでひどい政治をしていたり虐殺をしていたり、というような描写はなく、特に悪い点も指摘されずただただ同情される。

大学で使う中世ウェスタロス史専門書に載るレベル

ここまでで述べた人物たちが、世界史に残る人物たちの全てではないかと思う。 その他の貴族たちや王都に関与した人々は、皆この専門書レベルに落ち着くと思う。世界史ではなく中世ウェスタロス史だ。 ここに該当する人物は多いので、思い入れのある人物や世界史になりそうだけどならないと考えた人物たちについてだけ軽く述べる。

ジェイミー・ラニスター

国王ジョフリー・バラシオンとトメン・バラシオンは彼の双子の姉のサーセイとの間の子どもである。 が、後世の人々からしたら大した問題ではない。このすぐ後の時代では世襲が廃止されるのだから、前王と血縁関係のない者が王についたからといって大して気にされない。

ジェイミーはドラマが進むにつれ、丁寧に好意的に描かれるようになった。最初はスターク家と敵対するところから始まり...そもそも彼がブランを塔から突き落としたところから物語が動き出すわけだが、彼の弟ティリオンに対する思いは王都でネッド・スタークを襲撃した最初から最後まで一貫しており、その兄弟愛は最終回で涙を誘った。

人類の存亡をかけた戦いでも、王都から一人馳せ参じた。私は彼が好きだが、でも世界史的に大きな功績を挙げたとは言い難い。中世ウェスタロス史を好む人々から、日本の歴女真田幸村に向けるような熱い視線を浴びるに留まるだろう。

ジョフリー・バラシオン

こいつはサイコパスでサンサが言うようにモンスターだが、意外にもそのサイコパスぶりは民衆にはあまり発揮されていない。彼がサイコパスぶりを発揮するのは周りの人間に対してだけだ。 キリスト教徒を迫害したローマの皇帝ネロのように宗教信者を迫害したりすれば少しは一般的にも名が知れた悪王になれたかもしれないが、ジョフリーはパッとしないまま短い生涯を終え、一般には名の知れない歴史的重要性もない王として終わる。

ロブ・スターク

「キャスタミアの雨」「ブラッドウェディング」などと聞けばゲームオブスローンズファンにはすぐわかる惨劇であり、ドラマ屈指の衝撃シーンだが、世界史には残念ながら残らない。 歴史を動かしたような事件とかは名前が残ったりするが、その当事者名までは残らなかったりする。

第一次世界大戦は世界史屈指の出来事であるが、そのきっかけとなったサラエボ事件は知っていても関係人物の名前がパッと出る人はあまりいないだろう。 ちなみに犯人はプリンツィプで、殺されたのはオーストリアのフランツ・フェルディナント皇太子夫妻。第一次世界大戦のきっかけとなった事件の関係者の名前でさえ最難関私立大学レベルだ。

第一次世界大戦と並ぶとは言えないものの、世界史上非常に重要な戦争である三十年戦争のきっかけとなった、誰かが誰かにどこかの窓から放り投げられた事件については私も全然関与者は知らない。

歴史に大きな影響を与えた事件でもそうなのだから、キャスタミアの雨事件も関係者の名前は残らない。ロブ・スタークが生きていても兵員不足でジョフリー殺害は難しい状況だったし、ボルトン家に奪われたウィンターフェルは数年後にすぐ取り戻した。ロブ・スタークの死は世界史にほとんど影響を与えなかった。

事件の残虐性、悲劇が中世ウェスタロス史専門家に知られるだけだろう。 だが残念なことに、それでも約束を守らず、勝手に他の女性と結婚したことによる自業自得、と評価されてしまうかもしれない。

ジョン・スノウ

北部総督ネッド・スタークの落とし子であり、良き兄弟に恵まれるも不遇な半生を送ってきたジョン・スノウ。実はレイガー・ターガリエンとリアナ・スタークの間に生まれた、鉄の玉座の正当な後継者エイゴン・ターガリエンであった。

だが残念なことに、彼がエイゴン・ターガリエンであることを活かすことはできなかった。デナーリスとドラゴンデートをすることができたぐらいだ。 そしてこれからも彼がターガリエンであることが生かされることはないだろう。 彼は壁の向こうの野人と壁よりもこちら側の人間を初めて融合させたが、地図上の陸続きの小さな箇所の民族と融和を成し遂げたことは、ドラスクを海を超えて移動させたデナーリスのインパクトとは遠い。

人類存亡をかけたホワイトウォーカーの立役者となったことは間違いないが、その戦いの功績はアリアやデナーリスに帰せられる。 デナーリス殺害についても、「デナーリス・ターガリエンは王都を陥落させたが、即位を目前に部下に殺害された」と名前は触れられずデナーリスが主語で語られるだろう。

ドラマの主人公のように描かれたが、最終シーズンで見せ場を作ることができず、歴史に名前を残すこともできないだろう。

世界史に残ることの難しさ

まだまだ書きたいことはあるのだが、疲れたのでこれぐらいにする。 世界史に残るのは誰かと考えたが、この数える程度の人々だと思う。

世界史に残るには、やはり、その人がそれをしたからこそ歴史が動いた...世界が変わったと言えるような功績があるようだ。加えて、やはり目立たないといけない。 個人的に推しのピーター・ベイリッシュは、要所要所でゲームオブスローンズの物語のトリガーとなったが、彼が得意としたのは裏からの政略・謀略で、表に出るものではない。ヴァリスもそうだ。 だから歴史的に諜報は一般に思われている以上に大きな役割を果たしているが、一般的にはあまり知られず、関心の高い人に知られるのみとなっている。

とはいえやはりゲームオブスローンズという非常に多くの人々が登場し丁寧に描かれる重厚なドラマを見ると、歴史のスポットライトが当たる一部の人々の裏にどれだけの愛のドラマ、憎しみのドラマ、謀略のドラマがあったことか...歴史の壮大さを改めて感ぜずにはいられない。

もっともっと歴史書を手に取り、世界の細かなドラマを知ろうと思った。